その国に居たのは 一人の神様だった。
贄の名前
I.香辛料
幾年月が経ったろうか。
カレンダーを見ながら、ぼうっと冬獅郎は考えた。
桃が「神様」を日番谷君と呼び出したのが十年前。こちらの感覚でいえば大して前ではない。
そして、その日番谷君が冬獅郎になってから未だ三年。
「桃ォー…。」
冬獅郎の情けのない声に、シーツを干していた桃が振り返った。
「んなモン、俺が後でやるからさァ」
そういって手招きすると、桃は少し考える仕草をしてから思いっきりあっかんベーをしてきた。
いい度胸だ。
「…桃…お前…まさか。」
嫌な予感がして冬獅郎は複雑そうな顔をした。
「今日は、おあずけ。」
語尾にハートが付きそうなほど甘い声で桃はそう言った。
普段聞かない甘い声だけに余計恐ろしい。
「…いや…ホント、俺が悪かったと…思って…マス」
「…本当に?」
むぅっとした顔をする桃に、こくんと冬獅郎は頷いた。
I@.五つ星の味
「……かわいーんだよ、お前。」
ボソッと零したその言葉は藪蛇だったらしく、桃の笑みはより一層深くなった。
「…一週間ぐらい、お料理だけで大丈夫かな?」
冬獅郎も、桃の普通の食事も普段から食べている。
多少効率は悪いものの、あれにも「愛情」が含まれている為、栄養になるといえばなるのだ。
…ただし、流石にソレでは物足りない。
一週間の禁酒や禁煙のようなものと一緒だ。もっとも、それにプラスして在る程度の空腹があるわけだから、余計辛い。
「…勘弁して下さい。」
何を考えてるのか解らない事が余計恐ろしい、と冬獅郎は小さく溜息をついた。
「…お前、最近心閉じるの上手くなったな」
「勿論!」
自慢げにピースをする彼女を見て、はぁぁ、と今度は大きく冬獅郎は溜息をついた。
「…あぁ…愛が足りねぇ…。」
ぐったりとする冬獅郎が、桃を見上げた。
「桃ぉ〜…。」
懇願する動物と同じ様な目で見られて少し桃は揺らいだ。
計算してやっている。そう解っていても。
(…可愛すぎる)
何だかんだ言って、一番自分が惚れ込んでいることは自覚していた。
はぁっと息を吐き出すと、桃は洗濯物から手を放した。
「冬獅郎が悪いんだからね。」
「あぁ」
「…許してあげるのは、今回だけだよ」
桃の顔が近づいているのを確認して、冬獅郎は幸せそうに笑いながら目を瞑った。
「…あぁ。」
とくんとくんと流れ込んでいくソレを愉しむ。
指先まで、ソレが広がってゆくのが解った。
IA.LOVE AND PEACE
「…おかわり。」
「へ?」
唐突の台詞に、桃はきょとんとした顔をした。
「…俺さぁ」
そう言いながら冬獅郎はソファから乗り出すようにしてまた桃に顔を近づけた。
「まだまだ、食べ盛りなんだよなァ?」
言葉の意味を察して、桃は一度に真っ赤になった。
「…っ…昨日で十分でしょっ!!」
「足りねェなァ…。あと五回はいけるぜ?…駄目か?」
例の瞳で懇願されては、桃が勝てる筈もなかった。
「…っ…あ、明日!洗濯も掃除もやってもらうからね!」
「うん」
「あと、明日はご飯だけっ!」
「え…。せめてもキス一回と飯にしてくれよ…」
「ダーメ!」
ふくれっつらの桃に、仕方ないなと冬獅郎は苦笑した。
腕を引っ張ってソファへと優しく押し倒す。
「その分、食い尽くしてやるから。」
「〜〜〜〜っ!!」
きっと、果実の桃よりも赤い彼女に口付けを落とす。
君の名前を呼ばせておくれ
甘い甘い君の名前を
声にするたびに、甘い味が広がるんだ。
呼ばせておくれ
君の名前を
fin.
+戻+
::後書::
…すみません。
本当すみません。
これで終了なんです。(ええ?!)
とっても楽しみながら書かせて頂きました!
ただ甘い甘い二人が描きたかっただけなのです。
本当は見せきれなかった超シリアスな部分とかあるのですが、
また機会があれば番外編等も製作すると思いますので、その時に。
「贄の名前」の冬獅郎も桃も、これからも宜しくお願いします。
…ちなみに初の連載終了作品でした(笑)
(05.12.24)